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特別寄稿 「源氏物語と文化力」 源氏物語千年紀委員会 下田元美


 「文化力」という言葉が使用されて久しい。国の「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(平成19年2月9日閣議決定)においても基本的視点に「文化力の時代を拓く」「文化力で地域から日本を元気にする」と記している。
  「文化力」の意味合いは、文化が持つ人々を引き付ける魅力や社会に与える影響力を捉えなおすことにあるだろう。我が国の伝統文化を現代生活の中で再評価し、今日的フィルターを通したうえで再提言し、新しい日本スタイルの確立を目指す「新日本様式」も日本の文化的ストックを商品開発などにいかすことを柱としており、文化庁と経済産業省が別の登山口から同じ山の頂に向かっているかのようである。

 さて、2008年は源氏物語がこの世に確認されて一千年の記念の年を迎える。多くの歴史的・文化的資産に恵まれている京都ではあるが、千年紀というのは滅多にあるわけではない。地元ではそれなりに来年に向けて準備が進められており、認知度も向上してきている。本年4月からこの千年紀事業に関わっていること(源氏物語千年紀委員会事務局に勤務)もあって、2年前からお世話になっている本協議会の場をお借りして源氏物語と文化力について述べてみたい。

 まず、この物語の評価について源氏物語千年紀のよびかけ人のお二人の言葉を引用する。「紫式部によって書かれなかったなら、日本の文学史や日本人の美意識の伝統はまるで別様のものとなっていたにちがいない。」(秋山虔東京大学名誉教授)、「もし日本の文化的遺産を一つあげよといわれたら、私は躊躇なく源氏物語を推すだろう。」(瀬戸内寂聴)。それでは海外からはどのように見られているか。ここで米国ライフ誌の特集を紹介する。同誌は1997年10月(特別号)にランキング「この千年に世界を変えた100の出来事」を発表している。数百人の専門家が「歴史への影響」を基準に選んだとのこと。「コロンブスのアメリカ到達」(1492)、「ガリレオの地動説」(1610)などの上位に混じって83位に「紫式部が世界最古の小説(源氏物語)を執筆」(1008)が登場する。参考までに日本に関係する事項を挙げると、16位「広島、長崎に原爆投下」(1945)と88位「明治維新」(1868)となる。加えて20世紀以降に源氏物語が10カ国の言語で翻訳されていることを合わせると、私たち日本人が考えている以上にこの物語の評価は世界的に高いのではないか。

 じつは源氏物語千年紀委員会として、別掲のように基本理念・事業目的を整理しているが、ポイントは二つあって、源氏物語の評価の高さと、そして源氏物語の与えた影響の深さと拡がりに着目している。この千年間の「影響」事例は記録によく残されている。源氏絵は鎌倉時代以降の作品が多く存在しているし、物語の成立から100年ほど後に生まれた歌人藤原俊成は「源氏見ざる歌詠みは遺恨の事也」と記し、安土桃山時代の武将細川幽斎は戦乱の中にあって源氏物語の写本に精を出している。禁中並公家諸法度を定め天皇と公家を追い込んだ徳川家康でさえ二条城で甲高い声で物語を読み上げていたという。また江戸中期の学者本居宣長は「人の情け」や「もののあはれ」という日本の美意識がこの物語から胚胎したことを指摘している。文学だけでなく能をはじめとする舞台芸術や絵巻物・屏風絵・襖絵などの美術・工芸そして着物のデザインやお香の世界にまで及んでいる影響はまさに「文化力」と云えよう。

 それで現代はどうかということになる。宣伝臭くて恐縮だが、当委員会はここに掲げるロゴ・キャッチコピーを作成し各方面にその使用を呼びかけた。一部費用負担が発生するが概ねかなり自由に使用できる。おおいに千年紀を盛り上げていただくためこの夏に説明会を開催したところ、主催者の予想を超える200名の参加を得た。これも源氏物語の力であろう。千年紀にむけた事業やロゴ・キャッチコピーの使用に関する相談件数は170件を超えており、その半数が具体的に動きはじめている。出版や番組制作の仕込みも始まっていて事務局としては確かな手応えを感じている。
  既にいくつかの百貨店や和装関連業界では「千年紀記念セールス」を準備していることを考えると文化遺産がビジネスに転化する好例といえるのではないか。

 私たちの事務局では、来年の「記念式典」(11/1)、「源氏国際フォーラム」や「源氏華舞台」など数々の催事を準備し、また関係機関での実施をお願いしている。2008年は、源氏物語に因む展覧会・舞台美術が各地で展開され、目に触れる機会が多くなるだろう。
これらを通じて1000年前に開花した王朝文化を私たちの手許にとり戻し、これからの日本を考える縁(よすが)として次代に伝えていくことが当委員会の使命なのだろうと考えている。

源氏物語千年紀 紫のゆかり、ふたたび

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